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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(そ)1号 判決 1948年12月16日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年二月に處する。

理由

檢事総長福井盛太非常上告申立の理由は「青山廣志に對する窃盗被告事件に付、昭和二十三年七月十六日佐倉簡易裁判所に於て被告人に對し窃盗罪に依り懲役一年六月に處する旨を言渡し、該判決は同日被告人の上訴權抛棄に因り即日確定し、刑罰執行中のものなるところ、右は曩に被告人が昭和二十年二月二十七日横須賀鎮守府軍法會議に於て戦時逃亡国家総動員法違反被告事件に付懲役八年に處せられた當時其の刑の執行を終了した前科あるものとして刑法第五十六條同第五十七條を適用し、累犯加重を爲したるものなること一件記録判決書に徴し明らかであるが、其の後千葉檢事正草鹿淺之介に於て右前科を調査したところに據れば右刑は二年間其の執行を猶豫せられ、而も昭和二十年十月十七日勅令第五百七十九號大赦令に依り赦免の罪名に該當するものなること同檢事正報告書添付の「昭和二十三年八月二十日附横須賀刑務支所より千葉刑務所宛釋放者の身分帳についての件回答」と題する書面並びに「昭和二十三年九月六日附横浜地方檢察廳より千葉地方檢察廳宛、恩赦事項について」と題する書面記載に徴し明白なるところとす。果して然りとすれば前示佐倉簡易裁判所の爲した審判は本來累犯の加重を爲すべからざるものに對して之を爲したものとして刑罰法令の適用を誤った違法あるものと謂わざるを得ない。仍って右法令違反部分の原判決を破棄し更に相當なる裁判を求める爲、茲に非常上告に及ぶ次第である。」というにある。

仍て案ずるに、原審佐倉簡易裁判所は、昭和二三年七月一六日被告人に對し被告人は、相被告人徳島弥と共謀の上同年六月二五日午後十一時三十分頃千葉縣印旛郡本埜村滝復寺五一六番地海老原勇方より朝鮮牛牝八歳一頭見積價格金四萬圓位を窃取した旨の犯罪事実を認定し、なお被告人に對する身上取調書中の前科欄の記載により昭和二〇年二月二七日横須賀鎮守府軍法會議において戦時逃亡国家総動員法違反被告事件につき懲役八月に處せられ當時その刑の執行を終った旨の前科を認め、刑法第二三五條の外同第五六條第五七條をも適用して累犯加重を爲し、被告人を懲役一年六月に處し、該判決は即日確定したことは、一件記録に徴し明らかなところである。然るに所論「身分帳についての件回答と題する書面」並びに「恩赦事項についてと題する書面」によれば、原判決の認めた前科は二年間その執行を猶豫せられたものであるのみならず、昭和二〇年一〇月一七日勅令第五七九號大赦令によりその罪は赦免せられたものであること明白である。從ってその前科の刑の言渡は執行猶豫期間の終了を俟つまでもなく、即日將來に向ってその効力を失ったものといわねばならぬ。然るに原確定判決は、前述のごとく、この前科の刑の言渡を消滅せざるものと誤認して累犯加重をしたものであるから、結局不當に累犯加重の規定を適用した法令違反あるものといわざるを得ない。それ故本件非常上告は結局その理由あるものと認める。

よって刑訴第五二〇條第一號本文に從い原確定判決の法令を不當に適用した累犯加重部分を破棄すべきところ、該部分は他の部分と不可分であるから、原確定判決全部を破棄し、同號但書に從い被告事件につき更らに判決を爲すべきものとする。すなわち原確定判決の確定した被告人の前示所爲は、刑法第六〇條第二三五條に該當するから、その所定の刑期範圍内において、被告人を懲役一年二月に處すべきものとし、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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